2013年6月19日水曜日
進化するイタリア・サッカー。守備から攻撃へ
数センチの隙間もない中盤。
イタリアは歴史的に「守備の国」である。
「カテナチオ(catenaccio)」という言葉は、イタリア語で「錠前」を意味し、サッカー・イタリア代表の「堅い守備陣」を称えるものだった。
「失点のリスクを極限まで減らし、少ないチャンスを確実に決める。そこには『近衛兵のように屈強なストッパー』がいて、こぼれ球をひょいと押し込む『細身の点取り屋』がいた(Number誌)」
ゴールまでのパスは「少なければ少ないほど良い」としたイタリア・サッカー。カテナチオ(錠前)は、そうした効率性を突き詰めたイタリア・サッカーが表現した「芸術的な形」であった。
だが、フランス人やスペイン人は、首を振った。
「あんなもの、サッカーじゃない」と。
相手のミスを利用することを「究極の快楽」とするイタリア・サッカーは、対戦相手にとって気持ちのよいものではない。
しかし、誰もイタリアに文句を言えなかった。そのカテナチオの時代、イタリアはどの国よりも「結果」を出していたからだ。
「イタリアは歴史の中で、結果を出し続けてきた。素晴らしいことだよ。誰にも否定できない」
そう語るのは、チェーザレ・プランデッリ氏。現在のイタリア代表監督である。
「相手のミスを利用し、終了間際に一発を食らわせる以外にも、できることはある」と、代表監督になる前にプランデッリ氏は言っていた。
「そうしないと、時代に取り残されることになる。『積極的に仕掛けていくサッカー』。それができる選手が、このイタリアにはいたのだから」
プランデッリ氏がイタリア代表監督に就任したのは、2010年。イタリアが南アフリカW杯で惨敗したその後だった。
プランデッリ新監督が描く「新たなイタリア代表」。その絵の中心にいたのは、柔らかな笑みを浮かべる「物静かなミッドフィルダー」。
「アンドレア・ピルロ」
プランデッリ監督は、初めてピルロを目にした時のことをよく覚えているという。
時代は1990年代半ば。若きピルロは正統な「ファンタジスタ」であった。
イタリアでサッカー選手を「ファンタジスタ」と呼ぶのは、閃きや想像性に満ちた一流のプレーヤー(主にフォワード)に対する最高の賛辞である。バッジョやゾラ、デル・ピエールらがそうである。
しかし、ピルロはある時、ファンタジスタから「レジスタ」へと転向する。
「レジスタ」というのは、ファンタジスタよりもMF(ミッドフィルダー)寄り(後ろ寄り)の「ゲーム・メイカー」である。
「10番から『中盤の底』にポジションを下げたピルロは、選手としての第二の人生をスタートさせ、それはイタリア代表の成功に直結する(Number誌)」
ピルロが全試合でプレーした2006年のドイツW杯、イタリア代表は世界の頂点に立った。決勝戦で「マン・オブ・ザ・マッチ(最優秀選手)」に選ばれたのは、そのピルロである。
「ピルロの存在があったからこそ、『今のイタリアのサッカー』は実現できたんだ」と、プランデッリ監督は手放しでピルロを賞賛する。
欧州選手権(ユーロ2012)で準優勝を果たした時も、イタリアの中心はピルロだった。
プランデッリ監督は、「ピルロという才能」を最大限に活かすことを念頭にして、チームを構築していったのである。
ピルロが支配する中盤は盤石。
そのボールは、前線のタレントを活かすことにもつながる。
「バロテッリ、カッサーノ、エルシャーラウィら、足下の技術の高い選手たちが躍動するようになった(Number誌)」
ピルロ中心の「美しいサッカー」
そのイタリア代表は、かつて守備一辺倒だったカテナチオ(錠前)ではもうない。ピルロがメイクするゲームは、じつに「攻撃的なサッカー」だ。
元日本代表の福西崇史氏は、こう評す。「イタリアに対するイメージは、ユーロ2012を機にガラリと変わりました。堅実な守備をベースにとするかつてのスタイルは、今のイタリアからは感じられません。世界のトップレベルで、攻撃的でクリエイティブな要素を表現しています」
現在、ピルロは34歳。
イタリアはピルロなき後の「ポスト・ピルロ」を考える時期にも差し掛かりつつある。だが、今回のコンフェデ杯において、ピルロは好調を維持している。
「プランデッリ監督とピルロが率いるイタリア代表は、ブラジルの地でこれまでに築き上げてきたものを見せてくれるだろう(Number誌)」
イタリアの初戦の相手は「メキシコ」だった。
実力の伯仲したこの試合、先制点を上げたのはイタリア。決めたのは司令塔ピルロ。
「約25mのカーブをかけたFK(フリーキック)を直接決めて先制した(前半27分)」
その後、メキシコに同点に追いつかれた後の後半15分、ふたたびピルロの代名詞たるFK(フリーキック)はメキシコ・ゴールを襲った。だが、わずかに枠を捉えきれなかった。
最後に試合を決めたのは、イタリアのバロテッリ。彼のもつ攻撃力には、メキシコの守備陣をもってしても対応することが難しかった。
そのイタリアと次に対戦するのは「日本代表」。
ザッケローニ監督も、メキシコ戦で得点した「ピルロ」と「バロテッリ」には目を光らせている。
「バロテッリとピルロにつながる縦軸があるということは、彼らをコントロールすることが難しいということだ」とザッケローニ監督は語る。
DF(ディフェンダー)長友佑都が最も警戒するのも、バロテッリの破壊力だ。
ただ、絶対的に安定している司令塔ピルロと違い、若いバロテッリは時おりプランデッリ監督でさえ手に負えなくなる悪童ぶりを発揮する。
メキシコに勝利した際も、決勝弾を決めて興奮極まったバロテッリは、ユニフォームを脱ぎ捨てたために「不必要なイエローカード」を食らっている。
プランデッリ監督も、「マリオ(バロテッリ)は話すのが難しい。予想しづらい選手だ」と認めている。
日本に対してプランデッリ監督は「非常にいいチームだし、危険な相手だ」と語っている。
イタリア人であるザッケローニ監督にも警戒感を示す。
「彼は優れた監督で、選手の最高のプレーを引き出す術を知っている」と。
コンフェデレーションズカップ2013
日本 vs イタリア
キックオフは日本時間、明日(6月20日)朝7時。
日本はここで負ければ、グループ・リーグの敗退がほぼ確定してしまう。
決戦を目前にして日本代表ザッケローニ監督は、「日本はブラジル戦よりも、さらなる強硬姿勢で臨まなければならない」と話している。
「相手の方が強いチームであることは明らかだが、イタリアだっていくつか弱点は持っている。われわれは肉体的な手法よりも、技術的なアプローチで試合に臨む」
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 6/27号 [雑誌]
「イタリア 夢想家の指揮官がピルロに託した未来」
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