2015年8月25日火曜日
イタリアにおける「本田像」[ACミラン]
日本代表の柱、本田圭佑(ほんだ・けいすけ)は現在イタリアのビッグクラブ、ACミランのレギュラー陣に名を連ねている。加入から1年半、はたしてその評価は?
以下、Number誌より各人の証言を抜粋引用する。
まずはACミランのCEO(最高経営責任者)、ガッリアーニから。
「彼には本当に驚かされることばかりだよ。非の打ち所がないプロフェッショナルな選手だし、人間性も最高だ。場違いな発言はしないし、誰かを嫌な気持ちにさせるジェスチャーも決してしない。問題を引き起こすことも絶対にあり得ない。本田はスーペル(スーパー)、スーペル、スーペルな人間で、まさに理想のサッカー選手だね。
サッカーに対し、常に集中力をマックスに保っているあの精神力にも、いつも驚かされる。たとえば、日本代表に召集されイタリアに戻って来るとき。彼はマルペンサ空港(ミラノ)に到着するといつも、すぐに自宅には戻らず、その足でミラネッロ(ミラノ郊外にある練習場)に向かう。そして1時間後には、ミランの練習着に着替えて練習をしている。南米の選手なんかは、飛行機に乗り遅れ予定日に戻ってこないことさえもよくあるけど、彼はそういったこともこれまで一度もないですからね。
本田は今季ももちろん、ミランでプレーすることになるでしょう。彼がチームを去るといった仮定でさえ、われわれはこれまで考えたことがないですから。彼自身がそのようなことを言ってきたこともありませんしね。今シーズンも、本田がチームに重要な貢献をしてくれると期待しています。彼はレベルの高い選手ですから、チームにとって必ず役に立つ存在であるはずです。
インザーギ(前監督)は昨季、彼を主に 4-3-3 の右サイドアタッカーとして起用していました。でも、監督がミハイロビッチに替わり、今季は 4-3-1-2 のトップ下で使われることが多くなるでしょう。彼が最も力を発揮できるポジションは、私も友人のザック(ザッケローニ元日本代表監督)が主張しているように、トップ下だと思います。
ただ、トップ下ではメネズ、ボナベントゥラとの激しいポジション争いが待ち受けています。ビッグクラブではこういった厳しい競争があるのは当然ですけどね。とにかく、本田がトップ下の定位置を確保できるかどうかは、彼次第ということになるでしょう。もしかしたら、メッザアーラ(インサイドハーフ)で起用される可能性もあるかもしれません。その場合、はたしてどう機能するのか。それは結果を見てみることにしましょう」
次に、前監督インザーギの言葉。
「昨季、僕がACミランの監督になる以前から、選手としての本田は知っていたし、他の多くの者たちと同じように僕も彼を高く評価していた。そして実際に監督と一選手という関係になってからも、その僕の評価に変化は一切なかった。互いを深くリスペクトする。これ以上ないまでに良好な関係だったと思うよ。
本田は昨季、当初は構想外だったのではないかだって? なにを根拠に誰がそう言っていたのか。当の監督である僕が知らないはずはないんだが、じつに不思議な話だね。昨季、全38節を通して本田が大半の試合でスタメンに名を連ねていたという事実。この僕が知っているのはそれだけだよ。
シーズン中も何度となく繰り返したように、本田のプロ意識は本当に素晴らしかった。練習に取り組む姿勢は言うまでもなく、すべての試合に彼は誰よりも高い集中力で臨んでくれた。もちろん、そのプレーがうまくいく時もあれば、そうじゃない場合だってある。でも、どんな状況であれ、本田は全力を尽くしてチームのために走っていた。
本田はミランの背番号10を背負った。長いクラブ史を偉大な10番たちが彩ってきたのは周知の事実なんだけど、誰もが知る通り、今日のミランが置かれた状況は過去のそれとは明らかに異なる。大きな分岐点にある今、本田が10番を背負うことになんら問題はない。
何よりも大切なのは、いかなる番号であれ、属するクラブのユニフォーム、つまりは伝統への敬意を絶対に忘れないこと。その意味で、まさに本田は最高の模範とされるべき選手だと思う。”ミランの10番”に刻まれた意味とその重さを知り、耐えながら決して屈することなく、これ以上ないまでの努力を重ねることで、彼は最大限の敬意を払い続けていた。もちろん今も。むしろ、彼ほどミランの伝統に対して深い敬意を払う選手はほかにいないとさえ思うんだよ。
彼は最大限の敬意を払い続け、その責任を果たそうと懸命に走り続けていた。難しい状況に置かれたときこそ、本田は誰よりも熱く”魂を込めて”プレーしていた。誰よりも近い場所で見ていた僕が言うのだから、それは絶対に間違いないよ」
次にACミランの新監督、ミハイロビッチ。
「(本田には)最高の印象をもっていますよ。国際レベルの選手ですから。間違いなく日本サッカー史上でもベストプレーヤーのうちの一人。それには誰も異論を唱えないと思います。
本田は完成された選手ですね。強靭なフィジカルをもっていますし、テクニックも素晴らしい。一番の長所は無論、あの身体能力です。セリエAの選手の平均値を上回っています。チーム内でも、テストでは常にトップクラスの数値を叩き出していますから。あとはパスセンスも非凡なものをもっています。でも、もうちょっとゴールを決めて欲しいですね。
(監督就任前から)彼に対しては良い絵を描いていました。直接指導してみて、自分の思い描いていたとおりの選手であると再認識しましたよ。人間性の部分については知りませんでしたけどね。彼は典型的な日本人ではありませんね。日本人であることは間違いないですが、骨の髄まで日本人とは思えませんね。彼はちょっとナポリ人のようなところもあります。なぜなら、ずる賢いですから(笑)。練習中に自分のなかで何かが上手く消化されないと、私の問いにいつも『わかりません』と言いますから。
私はザッケローニ(元日本代表監督)のように、本田はトレクワルティスタ(トップ下)だと考えています。彼は右サイドをやれるフィジカルと高い戦術理解力をもっていますが、私は私で自分なりの意見ももっています。もし圭佑(本田)が戦術面でさらに向上できたなら、素晴らしいメッザアーラ(インサイドハーフ)になれると確信しています。
(本田の)出場機会は、私次第ではありません。彼次第です。もし与えられたチャンスを確実にものにし真価を発揮できたなら、なんの問題もないでしょう。出場機会はきっちり得られるはずです。とにかく私は、労を惜しまない日本人のメンタリティを知っていますから、本田がつねにベストを尽くすであろうことはまったく疑っていません。それは練習だろうと、試合だろうとね」
本田への評価は一様に高い。
だが昨季、ACミランはまさかの10位に終わっている。名門らしからぬ結果に対して、本田は以下のように語る。
「僕も含め、プレーしている選手が不十分なパフォーマンスだったということですよ。それに尽きます。とくにハードワークが足りなかったと思います。ミランの選手とはいえ、僕らはイブラヒモビッチでもなければメッシでもない。全員がハングリーになって、かつてのミランのような精神や姿勢を取り戻さないといけないと思います」
前監督インザーギを、本田はこう評する。
「インザーギには(今後に)期待したいですね。選手としては超一流、でもいきなりビッグクラブの監督を任されて、はっきりいうと失敗の烙印を押された。セリエAを戦い抜く指導者としての経験が浅かったのは否めない。だからこそ経験を積めば、名将といわれる日は遠くはないのではないかと期待しています。僕自身、インザーギ監督のもとで試合に出てプレーしていたわけですから責任が重いです。インザーギ監督は当初、僕を構想外と判断していたようです。開幕直後のゴールラッシュがなければ、どうなっていたかわかりません」
本田は今季の新監督、”鬼軍曹”ことミハイロビッチに対しては
「厳しい監督です。守備面ではまずハードワークが必要とされる。とくに自分がやっているポジション(トップ下)は走らなければいけないと感じています」
DF(ディフェンダー)出身のミハイロビッチ監督は、FW(フォワード)に対しても徹底した守備を求める。ミハイロビッチは「FWは第一ディフェンダーであるべきだ。FWは前線からプレスを掛けないといけないし、ハーフウェイラインまでは犠牲の精神をもって敵を追いかける必要がある。自陣にはいったら他のポジションの選手にバトンタッチすればいい」と言っている。
本田は言う。
「監督がどういうトップ下を望んでいるか。ミハイロビッチには『俺のチームにはこういうトップ下が必要なんや』というのがあるはず。それをより理解して、自分のもっている特徴をそこにアジャストさせていきたい。ミランでプレーするうえで一番大事なのは、『自分がどんなトップ下としてプレーしたいか』という以上に、『監督がどういうトップ下を欲しているか』だと思っているんですね。もし自分のスタイルを貫くのであれば、移籍というものも視野に入れたほうがいいと思う。でも今は、このチームで結果を出したいと思っている。このチームで何かひとつ成し遂げてから出て行きたい」
最後に本田は、こう締めた。
「今季も本田圭佑はミランで定位置を奪えるのか? ベンチスタート、もしくはベンチすら危ういのではないかと憶測している方もいると思います。でも、そんな人にこそ見ておいてくださいと言いたい。僕は尋常を超えた努力でそれを証明したいと思います」
(了)
ソース:Number(ナンバー)884号 特集 本田圭佑 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィックナンバー))
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