2013年6月21日金曜日
すっかり人気者「タヒチ」 [サッカー]
サッカー・コンフェデレーションズカップ
スペイン vs タヒチ
FIFA世界ランキング1位の「スペイン」に対して、「タヒチ」の世界ランクは「138位」。
タヒチは、今回のコンフェデ杯出場8チームの中で「唯一ランキングが3ケタ台」。
結果は予想通り、スペインが格下のタヒチに圧勝。
スペインは前半4得点、後半に6得点を上げた。フェルナンド・トーレスが「4得点」、ダビド・ビジャは「3得点」を記録する猛攻だった。
最終スコアは「10-0」という大差。
これはスペインの「歴史的勝利」。FIFA(国際サッカー連盟)主催の国際大会において、「10点差をつけて勝利したチーム」はこれまで存在しなかった。
「9点差」の試合はこれまで何度かあった。たとえば1954年W杯の「ハンガリー vs 韓国(9-0)」、1974年W杯の「ユーゴスラビア vs ザイール(9-0)」、1982年W杯の「ハンガリー vs エルサルバドル(10-1)」。
一般的に「歴史的勝利」というのは、格下が格上を打ち破る「ジャイアント・キリング(大金星)」に与えられるものだが、今回は世界最強のスペインがブッチギリの記録でそれを成し遂げた格好だ。
ところで、コンフェデレーションズカップという大会は、各大陸王者の集う大会だ。スペインが欧州王者ならば、日本はアジア王者だ。
じゃあ、「タヒチ」は?
W杯にも出場したことがないタヒチは、サッカーの国としては馴染みが薄い。
いったい、どこにあるのだろうか?
この小さな島国は、南太平洋上に浮かんでいる。その大きさは佐渡ヶ島よりは大きいが沖縄本島よりも小さい。
しかも正確には国ではない。フランス領ポリネシアに属する「一つの島」にすぎない。人口は17万人。日本の「市」の人口と比較しても、下から数えた方が早いほどに少ない。
それでも、タヒチは「オセアニア王者」となった。
コンフェデレーションズカップの出場権を巡る「オセアニア・ネーションズカップ2012」に参加したののはオセアニア8カ国(タヒチ、ニューカレドニア、バヌアツ、サモア、ニュージーランド、ソロモン諸島、フィジー、パプアニューギニア)。
順当に行けば、FIFA世界ランク57位の「ニュージーランド」が本命であった。だが、ニュージーランドは世界ランク97位のニューカレドニアにも敗れるほどにつまずいた。
結果は、優勝「タヒチ」、2位「ニューカレドニア」、3位「ニュージーランド」となり、見事「タヒチ」がオセアニア地区のコンフェデレーションズカップ出場権を獲得したのであった。
タヒチ唯一の「プロ選手」は、マラマ・ヴァイリュア一人。
ヴァイリュアはタヒチ出身ながら、フランス代表(U-21)に選出された経験もある、突破力が武器のアタッカー。ニースやモナコなど、フランス・リーグで長年にわたって活躍している。
その経験豊かなヴァイリュアは現在33歳。コンフェデ杯前に、こう語っていた。
「タヒチのフットボールが“島”を越えて、さらに上のレベルへと行くためのチャンスなのだと思います。コンフェデレーションズカップは、タヒチのサッカー・プレイヤーにとっては間違いなくプロの世界を切り開くための扉なのですから」
そして、舞台はコンフェデレーションズカップへ。
「10-0」の大差となったスペイン戦後、スペインのビセンテ・デル・ボスケ監督は「チームの実力差は歴然だった」とコメント。
それでも、「彼らは正しいプレーをした。彼らは立派なチームだった」とタヒチの健闘を称えた。タヒチは予想外に「前半のボール所有率で37%」を記録していた。
4ゴールを決めたフェルナンド・トーレスもタヒチに感銘を受けたと語る。「タヒチは100%の情熱とフェアプレーで最後まで戦った。彼らは決して試合を投げたり、相手を蹴ったりすることがない。彼らはサッカーを楽しんでいる。彼らを手本とすべきだ」と。
一方、敗れたタヒチのエディ・エティタ監督は、「アマチュアの選手たちが、ブラジルの観衆から受けた歓迎は『大きな勝利』を意味している」と述べた。
「私たちは『ファンの心』を勝ち取った。すべての人に『オブリガード(ありがとう)』!」
ブラジルの大観衆は、タヒチに万雷の拍手を送った。
ブラジル人は、いわゆる日本でいう「判官びいき(義経びいき)」のような気質があるのか、格下のチームを大歓声で応援してくれる。それは、日本vsイタリアの試合でもそうだった。彼らは格下の日本の大健闘をヤンヤヤンヤの大声援で喜んでくれたのだ。
タヒチは、欧州王者スペインから得点を奪うことは叶わなかったが、初戦のアフリカ王者「ナイジェリア」からは「歴史的な初得点」を上げている。
最終スコアは「6-1」とナイジェリアの圧勝だったものの、タヒチの獲った「1点」はチームにとって貴重な貴重な「FIFA主要国際大会での初得点」だった。
「タヒチの選手は、テハウが決めた得点を『勝利したかのように』喜んだ(AFP通信)」
その歴史的なゴールが生まれたのは、0-3とリードされた後半9分。CK(コーナーキック)のボールをテハウが頭で合わせた。
「何も考えなかったよ! ただただ友だちとゴールを喜んだんだ!」
決めたテハウは大喜び。
「ブラジルにやって来て、ゴールを決めて、それだけで大きなことさ! みんなにとってハッピーなことだよ!」
ゴール後、タヒチの選手たちは「カヌーを漕ぐ真似(パドリング・パフォーマンス)」を披露し、ブラジルの大観衆を沸きに沸かせた。
大観衆のほとんどはすっかり「タヒチの味方」になっていた。ナイジェリアの選手に対してブーイングを連呼するほどに。
タヒチのエディ・エティタ監督は、その大歓迎ぶりに感無量。
「あぁ、彼らはわれわれの味方だ。われわれは応援され慣れていないが、今日はブラジルの方々の心を射止めたようだ」と語った。
チーム唯一のプロ選手ヴァイリュアは、こう言っていた。
「サッカーは精密な科学じゃない。チームメイトには自分たちを信じろと言ってきた。今は自分たちのことを誇りに思う」と。
普段は配送運転手として働いているテハウ。ボールがネットを揺らした瞬間に「頭が真っ白になった」と話していた。
そして、理想のクラブはどこかという質問に
「夢見ちゃいけないかな? FCバルセロナだよ」と、はにかみながら答えた。
(了)
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ソース:Number
「【コンフェデ2013 出場国解説】 “アウトサイダー”と侮るなかれ! 帰ってきた救世主がタヒチを救う?」
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