2013年5月28日火曜日
「失敗を引きずらない」。吉田麻也 [サッカー]
イングランド、プレミアリーグ第31節
サウサンプトン vs チェルシー
「あれはまさに、自分の読みが当たったプレーでした」
吉田麻也(よしだ・まや)がそう言うのは、後半、モーゼス(ナイジェリア代表)がゴール前に抜け出してきたところを、CB(センターバック)の吉田がストップしたシーン。
「こっちに来るぞ、来るぞ…、よし来たーっ! という感じで守れましたから」
屈強な外国人選手を突き飛ばすような、力強い吉田の防御。
「ああいう守備ができた瞬間が一番CB(センターバック)をやっていて気持ちいいですよね」
吉田にフっ飛ばされたモーゼスは、ファウルをもらおうと倒れこんだ。だが、吉田が先に身体を入れていたから全く問題はなかった。
そしてこのプレーは、吉田の考えるCBの「あるべき姿」であった。
この快心のプレーを決めるまで、吉田はずっと「あるプレー」に引きずられたままだった。それは日本代表のヨルダン戦、相手のカウンターで最終ラインの吉田があっさりかわされ、決勝点を与えてしまった痛恨のプレーだった。
「あれは絶対にやってはいけないプレーだったんです」
敗戦後、吉田は自分の情けなさに沈んでいた。
イングランドへと帰る飛行機の中でも、まだ割り切れずにいた。
そして迎えた冒頭のチェルシー戦。代表戦の痛手からわずか3日後の出来事である。
吉田は「一回だけ空振りしちゃって(笑)」と自嘲的に笑うも、「それ以外ではミスはありませんでした」と言い切った。もうすっかり「切り替え」は完了。さらなる強さを増していた。
「年齢も今年で25歳になるし、いつまでも若手のようにミスを引きずるようでは弱々しい。割り切る。これは大事ですよ。外国人選手はまったくミスを引きずらない(笑)」
責任感の強い日本人は、どうしても過去の失敗に引きずられてしまいがちだが、「責任感が強すぎて、次に進めないのでは意味がない」。この点、外国人選手のタフさ、メンタリティは大いに参考になる、と吉田は言う。
「たった1秒、2秒の瞬間的な判断だけど、その間に味方や敵の動きを予測して、自分も動く。動きがハマれば成功する」
それがサッカーの面白さだと吉田は言う。ずっと一緒にプレーしてきたチームメイトの動きを信頼することで、自分の動きも見えてくる。
だが、味方を過信すれば、失点につながることもある。第35節のウェストブロムウィッチ戦の失点は、そんな過ちだった。
「守備は『だろう運転』ではダメなんです。『かもしれない運転』をしないと。だから『味方がやってくれるだろう』ではなく、『味方がミスするかもしれない』という意識ですよね」
第35節ウェストブロムウィッチ戦では、味方の右SB(サイドバック)クラインを信頼しすぎて、敵方のルカクの侵入を許してしまう。
「僕はルカクがいる右側に身体をもう一歩、二歩寄せていたら…」
DF(ディフェンダー)としての吉田の判断と動きに間違いはなかった。ただ時には、そのセオリーを覆す判断も必要となる。
「あそこでセオリーを覆してでも的確な判断ができるようになれば、もっとCB(センターバック)として良くなるはず。そんな悔しさが残っています」
一進一退
快心のプレーの後に、落とし穴。
それでも昨年(2012)9月にプレミアリーグ・デビューを果たした吉田は、半年以上の間に、この世界トップレベルのリーグで「31試合連続フル出場」という申し分のない数字を残した。
「名古屋(グランパス)での1年目もそうだったけど、試合に出れば出るほどいろんなものを吸収できているという感覚でした」と、吉田は振り返る。
そんな吉田にも想定外が一つあった。それは「ヘディング」。
「正直、こんなに競り負けるなんて思ってもいなかった」と吉田。
守りの要、CB(センターバック)がヘディングで競り負けてしまうと、イギリス人からは「あれれ?」と思われてしまうのだとか。
このヘディング以外の能力では、他のCB(センターバック)に引けをとらないと自負する吉田も、さすがに「あれれ」だ。
この点に関しては、来季への課題となった。
「大事なのは2年目以降」
吉田の意識は、すでに2年目のシーズンを見据えている。
「さらに次へ次へと思っています。人間は欲深いですから(笑)」
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 6/13号 [雑誌]
「日本人DFの頂点へ 吉田麻也」
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