2012年9月18日火曜日
世界に知らしめた「ナガイ・アタック」。永井謙佑(サッカー)
「ナガイ・アタック」
それは「矢」のようなカウンター。相手ディフェンダーは、疾走する永井謙佑の「影」すら踏むことができない。
永井の驚異的なスピードには、目の肥えたイギリスのサッカーファンたちも、拍手喝采を送らずにはいられなかった。「日本にNAGAIあり」を世界に知らしめたのである。
オリンピックが始まってから生まれたというこのカウンター攻撃は、日本サッカー代表の「最新かつ最強の武器」となった。
「ナガイ・アタック」による初ゴールは、オリンピック第2戦のモロッコ戦。0対0のまま、後半も残り少なくなっていた時間帯、清武弘嗣の浮いたパスを、猛烈なスピードで追った永井。ディフェンダーに競り勝つや、そのままゴール。その圧倒的な永井のスピードに、スタジアムは大きく響動(どよ)めいた。
「相手は謙ちゃん(永井)のスピードに完全にビビってた」と、清武は振り返る。この永井のゴールはそのまま決勝点に。
前線の永井に絶妙なパスを送るのは、清武弘嗣の仕事となった。永井と清武は、即席のコンビにもかかわらず、その呼吸はピタリ。まさに阿吽(あうん)である。
「キヨ(清武)は、パス出す前、顔を上げるんで分かりやすいんですよ」と永井。「キヨがボールを持った時に、信じて走ればパスが出てくる。そんな信頼感がありました」
スペインの名スカウト、ミケル・エチャリは、「永井と清武のコンビネーションは、『驚くべきレベル』にある」と激賞している。
ふたたび、「ナガイ・アタック」が炸裂するのは、準々決勝のエジプト戦。
清武は一瞬顔を上げると、そのまま縦に素早くパス。永井はすでに走っていた。清武が「顔を上げた瞬間」にすでに察していたのだ。
永井の爆発的なダッシュに度肝を抜かれたエジプト・チーム。相手センターバックとゴールキーパーまでがかわされ、日本に先制ゴールを許してしまう。前半14分という電光石火のスピードであった。
結局このエジプト戦は、永井の先制ゴールを皮切りに、合計3得点を上げた日本代表。44年ぶりのベスト4進出を決めた。
しかし、このエジプト戦でのナガイ・アタックは、大きな代償をともなった。得点と引き換えに、永井の「太もも」がやられてしまったのだ。
最大の武器を失った日本チームは、その後の2試合に連敗してしまい、最終的には4位に終わる。
日本に戻った永井。その快速の足からは「得点の香り」がしてこない。覚醒したはずの「スピード・スター」がなぜ? オリンピックを経験した者だけが患うという、一時的な病であろうか。
「じつは、エジプト戦で股にヒザが入った時の後遺症なのか、爆発的なスピードが感じられないんですよ」と永井。「なんか『ぐっ』てスピードが乗らない。ケガはもう治っているけど、『もう一回喰らったらヤバイかも…』っていう恐怖心もありますね」
オリンピックのようなプレッシャーがないと自分は頑張れない、とも永井は言った。
「でも、それじゃダメっすよね。自己改革しますよ」
大真面目にそう断言した永井は、遠い空を見ていた…。
そして、すぐに照れ笑いをしていた。
出典:Sports Graphic Number 2012年 9/27号
「永井謙佑 スピードスターは目覚めるのか」
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