2013年6月29日土曜日
「世界と戦うチーム」東洋大水泳部。平井伯昌の下で
日本最強、いや世界屈指といっても過言ではないかもしれない水泳チーム。
名伯楽「平井伯昌(ひらい・のりまさ)」氏率いる「東洋大学・水泳部」。
同氏の育てた北島康介はじめ、松田丈志、萩野公介、寺川綾、加藤ゆか、上田春佳といったオリンピック・メダリストたちが名を連ねる。
「これまでスイミング・クラブや大学などでマンツーマンに近い形で選手を強化することが多かった日本水泳界において、多数のトップ選手たちが互いに刺激し合いながら成長しようという試みは、水泳界の未来に一石を投じるものだ(Number誌)」
ロンドン五輪で56年ぶりに「高校生メダリスト」となった萩野公介は、目を輝かせて「水泳好きが集まる日本最高の場所」と語り、200m平泳ぎで世界記録をもつ19歳・山口観弘は「世界基準(グローバル・スタンダード)」と誇る。
「大学院には、他大学を卒業した優秀な人材や社会人を受け入れるという器がある。水泳界でも同じ形で『大学院のような場』があっても素晴らしいのではないかと思っていたんです」と平井氏。
仕掛け人である彼は、東洋大水泳部をそんな場所にしたいと考えている。平井氏はロンドン五輪でヘッドコーチとして辣腕をふるい、日本競泳陣としては戦後最多の「11個のメダル」を獲得している。
「いまの1年生が4年生になった時に『リオ五輪』があるけど、そのまた4年後の2020年の五輪で彼らは26歳、選手として最高のタイミングになる。だから、その時のための環境づくりを今のうちからやっておきたい、というのがあったんです」と平井氏は話す。
「世界と戦うチーム」というブランディングをしていきたい、と平井氏は言う。
「今の学生は僕らの頃と違って『平等意識』のようなものがあって、白黒つけないようなところがあると感じています。そこにスイミング・クラブのような『競争意識』を持ち込みたいと思ったんです」
平井氏がモデルとするのは「最強スイマーを量産するアメリカ」。
北島康介が北京オリンピック後に本拠地とした「南カリフォルニア大学」には、世界中から優秀な選手たちが集まってチームを形作っていた。
「今の1年生にとって、北島や松田、寺川、上田といったオリンピアンたちと一緒に練習できるのは、どれだけ幸せなことか。松田(丈志)と荻野(公介)なんか、競り合いながらモノ凄い練習をしている。面白いですよ」と平井氏は言う。
萩野公介、山口観弘ら10代のゴールデン・エイジは、東洋大水泳部がそうした体制を整えた絶妙なタイミングで合流してきた。
高校卒業を控えた山口観弘は、「強くなるためには、どこへ行けばいいのか」を考え、「平井先生が来年から監督になる東洋大でやるのが一番だ」と思ったという。
オリンピック代表への思いは叶わなかった山口であるが、平井氏から口を酸っぱくして言われていたのが「大きな泳ぎ」だ。
「ロンドン五輪の北島(康介)さんの泳ぎを見て感動して、そこからものすごく練習を頑張った」と山口は言う。その結果、昨年9月に行われた国体で、山口観弘は2分07秒01の「世界記録」を樹立するに至る。
また、チームメイトで同年齢の萩野公介に刺激され、日本選手権では世界選手権代表の派遣標準記録を突破することもできた。
「寮で同室になる萩野(公介)にあれだけ活躍されたら、自分もやらないわけにいかないと思いましたね」と山口は笑う。
その萩野公介は日本選手権、「5冠獲得」という圧巻の泳ぎを披露していた。
萩野公介は当初、アメリカ行きを考えていたという。その理由は「トップ選手がたくさんいて、自分の力になるものが多い」と思っていたからだ。
だが、「同年代にも強い選手がいる平井先生のところが、日本では一番いい」と考えた。そして、アメリカ行きはとりあえず大学を卒業してから考えることにした。
今では、「小さい頃から怪物だった選手と一緒に練習ができるとわかって、楽しみが増えました」と萩野は笑顔で話す。
「今までは一人で練習していましたが、それだと悪い面もでてくるので…。松田さんが来たり、北島さんが戻ってきたりして、トップ選手と一緒にやれるというのは、大きな理由の一つです」
目の前で泳ぐ北島康介や松田丈志の泳ぎを見ることで、萩野は苦手としていた平泳ぎやバタフライのフォームを「イメージしやすくなった」と言う。
オリンピアンの集う東洋大水泳部では、「目指す存在」が身近にいる。
そこは「成長できる場所であり、成長しなければならない場所」である、と萩野も山口も言う。
上々のスタートを切った「平井&東洋大水泳部」
「最初、理想の形ができるのは萩野や山口が卒業してからと思っていたんです」と平井氏は話す。だが、もうすでに今年4月の日本選手権でしっかり結果を残している。萩野と山口に加え、内田美希と宮本靖子も世界選手権の代表に選ばれた。
「だから今は、4年後の姿を見ているような感じでもあるんですね」と平井氏は言う。
目指すは、3年後のリオ五輪。
「トップにならなければならない選手たち」が平井氏のもと、しのぎを削る…!
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 6/27号 [雑誌]
「平井伯昌コーチと東洋大水泳部、常識への挑戦」
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